『あなたは・・・向こうの世界に行けるの?』 最後まで彼女の言葉が頭から離れなかった。 ![]() 「ん・・・。もう朝か・・早いな・・。」 おはよう、朝の光。おはよう木々のざわめき。おはよう、唄う小鳥たち。 今日もいつも通りの1日が始まる。この集落のリーダー・セツトラは誰よりも早く起き上がり仕事を始めた。 まずは天気を大体予想してどうすべきか考える。 いつも通りの朝だ。・・そう、いつも通りの。 「おはよう。」 「あ、ココセ、おはよう。」 皆もそろそろ起き始める時間か、と気づき朝食の準備を始める事にした。 昨日捕ったばかりの肉を見つめ献立を考える。・・・肉野菜炒めにでもしようか。 そう決まると早速火を起こす作業を開始する。 「ココセも手伝うよ?」 「いや、ココセには火は危ないから。良かったら野菜を適当に取ってきてくれるかい?」 「うん、わかった。」 そういうとココセは小さい身体を動かしせっせと走り始め倉庫へ向かった。 思えば彼女はここに来て結構な月日になる一人だと思う。それでもまだ覚醒は始まっていない。 稀にいるのだ。2・3年いても覚醒が起きない人が。 それはきっと本人が無意識で拒否しているせいもあるんだろう。それとも今の生活にまだ不満を感じているのか。 ここにいる人たちに楽しい生活を送らせる事が言わば自分の役目なのだ。 ・・・俺?俺は関係ないんだ。ここにいなきゃいけない人間だから。管理者・・だから。 『俺に・・・・さわるなぁあああああああああああああああああ!!!』 『トリノ!!!もういいんだよ!!!!!』 数日前、ここの住人だったアカとトリノが消滅した。正しく言えば向こうの世界に帰っていった。 二人とも大変な最後だったが、満足そうに消えていった。それが喜び。 その事を覚えているのは今の所セツトラとココセのみ。 彼女たちが消えて時間が経った今も頭をよぎる言葉。 『あなたは・・・向こうの世界に行けるの?』 未だ、これが引っかかっていた。 思えば一度も不思議に思わなかった。創造主に管理を任され早幾年が流れていた。 慣れてきたせいだろうか、生活も身体に染みはじめ・・これが普通だと思っていたのだ。 自分が向こうの世界に行くなど、考えた事もなかった。 「俺は・・どうなるんだろうな・・。皆がすべて覚醒するまで・・このままなのかな。」 皆が覚醒するまで、それはいつなのだろう。 というより「皆」がどこまでなのか。 最近もまた新しい住人が増えた所だ。 その「皆」の終わりが来るのか、謎なところ。 「確かに・・この世界は俺が望んだ世界かもしれない。けど、・・ちょっと寂しいかな。」 何人もの住人を送り出してきた。この目で、そして笑顔で、何度も、「いってらっしゃい」と。 それが自分のすべきことだと分かっていたから。皆に幸せになって行ってほしいから。 その考えから「住人は家族」という想いは始まった・・のかもしれない。 ・・・けれど、正直に言うと何度も人が現れ消える光景を見ているとつらい。 アカの残した言葉から自分の存在を考え直すようになったセツトラだった。 そして、その夜。セツトラは夢を見た。 彼が何度も見て飽きてしまったユメトキではなかった。 光の海に包まれ彷徨い、奇妙な音が漂う不思議な世界に彼はいた。 (この光景には見覚えがある・・。) そう思った瞬間だった。 「セツトラ・・・・セツトラよ・・・。」 「誰・・・だ?その声はまさか・・・。」 忘れたこともない。あいつの声だった。 神というべきなのかわからない、あいつの声。 名前の分からないあいつ。俺は世界を造った存在=創造主と呼んでいた。 「久しいな。我の言っていた事も・・全て真っ当しているようだな・・。」 創造主は笑っていた。まるで子供の成長を見て喜んでいる親のように。 (俺は、あんたの子供じゃないけどな。) その時・・ハッなって気づく。そうだ、これはチャンスではないか。疑問を聞くチャンス。 「あのさ!!俺・・あんたに聞きたい事があるんだ・・!?」 「・・なんだ?」 途端に静かになった。 真正面に、俺の問いに応えてくれるようだ。 「俺は・・ずっとこのままなのか? 俺は向こうに帰れないのか!?」 「向こう・・前の世界に戻りたいと?」 「そうだ。確かにこの世界は俺が望んだ世界だ。けど・・。」 「・・・なぜだ?」 「え?」 「望んだものを与えた、それで満足ではないのか?」 「違う・・・俺は・・・俺は・・さ・・。」 優しい目でもない、厳しい目でもない。 これは・・試している目だ。ずっとずっと・・真っ直ぐに俺を見ている。 言葉が欲しいのに序所に出なくなってしまっていた。喉をしめられたような感覚だ。 「・・・・。やはり人という存在は我侭だな・・。何度も何度も欲が出る。」 「・・ごめん、上手く言葉に出来ないんだけど。 けど、これぐらいの我侭は許してくれないか。俺・・頑張ったよな?もう・・だめかな。」 希望が薄い事ぐらい既に察していた。自分勝手なのも・・わかってる、この世界に管理者は必要な存在。 記憶がない状態で放り出されるのだ。そんな子たちを1人に出来ない。 それでもセツトラは最後に縋ろうとした。 「なら、お前の後任者を探すのだな。」 「後任者・・?」 後任・・ということは俺の役目を次いでくれる人物ってわけか・・? 「この世界に来る人間は不安定のまま送り出される、管理者は必要不可欠だ。 お前が管理者を降りるというなら・・・後を継ぐ者を探すがよい。いいな?」 すると序所に光に包まれていき次第に視界が狭くなっていった。 創造主の姿もやがて半透明になっていくのがわかり焦った。 「待ってくれ・・!!それで本当に俺は・・・!!!!」 「答えは、お前自身で作り出せ。」 そう良い残すと奴は消えていった。光が溢れ出して止まらない。まだ聞きたい事があるのに。 やがて、海に沈んでいくような感覚が俺を襲った。 深く・・深く。沈んでいく。手を伸ばして。 ハッ 気がつくといつもの朝だった。鳥の歌声が・・聞こえる。 「あれ・・・俺は・・・・?」 夢・・・だったのか、と不思議な気持ちになる。 さっきまで目の前にいたようなそんな感覚が残っていたからだ。 そして、まだ記憶にあった言葉を掘り起こし整理した。 「俺の後任・・・それさえ見つかれば俺は帰れるってことか・・・?」 答えを見つけろ。創造主はそう言った。 それはつまり、「自分次第だ」という事はなんとなく分かっていた。 後任・・そう聞いてセツトラの脳内にある人物が思い浮かぶ。 「" ≠オかいない。・・あいつならきっとやってくれる。」 そう言うと彼はニッと微笑みを浮かべいつも通り仕事を始める。 いつも通りの朝。だが今日は何かが少し違う。 それは虎の鼓動が始まる、少し前のお話。 -END- >>戻る |